良い手は指が覚えている(仮)

将棋大会とか自戦記とか

大山杯〜番外編〜

【勝ち抜くということ】

 

 表彰式まで呆然と立ち尽くしていると運営の方から声をかけられる。

 

 「息子がN君の優勝に悔しがってね〜俺勝ったことあるのに!って」

 

 大山杯に学校の行事で参加できなかったようだ。翌日の市民大会では優勝したらしい。

 

 「でも一回勝つのと勝ち抜くのは別ですよね〜」

 

 誰かに一度や二度と勝ったくらいで喜んではいけないのだ。それを得意げに語るのは笑止だ。(子供ならかわいいからいいけどネ

 

 プレイヤーの真価が問われるのは実績を残してこそ、優勝してこそ。

 

  勝ち抜かなければ意味がない

 

 その気持ちがあるうちは自分もやるつもりだ。

 

 

【教えを請う心】

 

 

 「あの…また教えてください!」

 

 少女は勇気を振り絞ったように私に声をかけた。

 

 ベスト16で対戦したKさん女流3級資格を持っている。

 

 「ぜひまたこっちに来たら」

 

 「春から女流プロになります!」

 

 その瞳はまっすぐと未来を見据えていた。

 

 なかなか言えないことだと思った

 

 私との将棋は彼女にとって納得のいくものではなかったと思う。

 

  腹がよじれるくらい悔しかっただろう。

 

 自分の少年時代なら不貞腐れていただろう笑

 

 彼女はプロとして一番大事な、しかし最も他人が教え難い資質を持っている。

 

教えてくださいと言える子は間違いなく伸びる。

 

将来きっと上手くいく、一瞬でそう感じた。

 

 

14歳の少女が忘れかけていた素直な気持ちを思い出させてくれた。

 

 

【背中で語る男】 

 

 

 石川のレジェンド、A春さんのことを書かないわけにはいかない。

 

 67歳にして激戦区で今年のアマ名人県代表。今大会も準決勝こそ残念だったが、3位決定戦に勝利。

 

 

 準決勝の将棋も若手を圧倒、勝勢だった。

 

 私ならこんな将棋を逆転された日には不貞腐れるだろう笑

 

 A春さんはそんな将棋を負けた直後、盤を挟んで熱心にノートにしたためている。

 

その光景が今も脳裏に焼き付いている

 

 当たり前のことかもしれないが、これもなかなか出来ないことだと思う。

 

 今でもお弟子さんを車で連れてよく全国の大会を巡っている姿を拝見する。

 

 67歳にしてこの強さと情熱。頭が下がる。

 

 お弟子さんはこの背中を見て育っているんだな

 

 

自分はまだまだ未熟だ。

 

背筋が伸びる思いがした。

 

いつかA春さんに教われるように頑張ろう。